2011年3月
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私たちにまっすぐ向けられている大きな眼差しが特徴的な作品だ。その女性には、私たちの視線をさりげなく拒否するかのような気品があふれている。しかし、だからといって、私たちに冷たくするわけでもなく、温かい雰囲気で包んでくれるのだ。
その眼差しは、私たちの注がれるわけではなく、どこか虚空を見つめているようだ。作者が好きな仏像の眼差しにも似ている。その眼差しからは、少女たちがよく抱く、現在、未来、存在等々に対する不安などはあまり感じられない。むしろ、今現在の生活に対する充実感や、将来に対する安心感の様なものを感じさせる。
作者は「少女の眼差しは虚ろいながらも、貴方の心にいざなう夢を語りかける」といっている。それは作者自身が、その内面にあるものを伝えたいという強い想いを持っているからだろう。そこには作者の現在、未来あるいは存在等々へのポジティブな思いが感じられる。このような思いは作者の成長とともに変化していくのだろうか?
作者の作品は、ノスタルジックな雰囲気に包まれていると言われるようであるが、それは中原淳一や竹下夢二の作品を連想するからだろうか、あるいはその眼差しを通じて自らのあるいは作者の内面のイメージに引き込まれていってしまうためだろうか?
金子 奈央 (Nao Kaneko)
1985年 東京生まれ
2008年 多摩美術大学絵画学科油画専攻卒業
個展開催
2009年 ギャラリーQ 東京・銀座
2010年 ギャラリーQ 東京・銀座
三越ギャラリー 東京・銀座
(k2o)
2011年3月26日 13:55 |
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今福ちか:「意識の辺縁」
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今福さんは、作品を制作する際に、それを展示する場所や時間(時期)を意識して作業を行うそうだ。いわゆる「インスタレーション」(中国では「設置芸術」)作品だ。彼女にとって見ると、その作品を展示する「場所・空間」が重要であるのはもちろんだが、それを展示する「時期・時間」も同様に重要な要素だ。場所・空間はこの数年展示を行っているギャラリーQだが、今回の展示では夏という時期を意識して、これらの「色」が彼女の意識から表出してきたのだそうだ。
以前から作品のテーマとして、「Conscious-ness」「意識」「記憶」等の言葉が使われている。それは、彼女にとって制作を行うということは、彼女自身のDNAの中に埋め込まれた古い記憶との意識的あるいは無意識的な対話に他ならないからだろう。以前の作品テーマで「Voice」(「声))という言葉が使われているが、これが「Sound」(「音」)でないのは、彼女の作品を制作するという行為が、無意識のうちにもっと根源的な生命との対話にも近いものになっているからかもしれない。
彼女の「インスタレーション」という制作方法によって、その「場所・空間」と、その「時期・時間」の相対的な「ありよう」が、彼女という「器」を通して、彼女自身のその時々の「存在」となって表されてくるのだろう。
略歴
1969年 静岡県出身
1993年 静岡大学大学院教育研究科美術教育専攻造形制作論修了
主な個展
1999年 「Voice of Colors」HARAJUKU GALLERY、原宿
2001年 「Cast-off, Lingering and Lasting…」ギャラリーQ、東京
2002年 「Conscious-ness」ギャラリーQ、東京
2003年 「記憶の上澄み-secret tale-」「静寂と饒舌 -Stillness and talkative-」ギャラリーQ、東京
2004年 「覚醒 -kakusei-1」「覚醒 -kakusei-2」ギャラリーQ、東京
2005年 「覚醒 -kakusei-3」ギャラリーQ、東京
2006年 「透過する意識」ギャラリーQ、東京
2007年 「意識の変換 線と色の物語」ギャラリーQ、東京
2008年 「意識の変換 線と色の物語」Vol.2-ギャラリーQ、東京
2009年 「意識の変換 線と色の物語」Vol.3-ギャラリーQ、東京
2010年 「意識の辺縁」ギャラリーQ、東京
(k2o)
2011年3月19日 14:06 |
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「コアラの刺繍をしていた」というタイトルのこの作品にはコアラが登場しない。しかし、このタイトルを見ただけで作者の世界に引き込まれてしまう。樋口さんの作品は、日常の一コマを切り取ったような作品が多い。これは一コマではあるが、「続いてゆくこと繋がってゆくもの」の一コマで、私たちが「受け入れる事しか出来ない物事」だ。
そのような作者の考えから紡ぎだされてくる作品は、何か温かい空間と時間を運んで来てくれる。日常生活の中で、何かむしゃくしゃしていた気分になっていたものが、彼女の作品を見ると、自然と微笑んでしまうような気分にさせてくれる。
作品の多くは、銅版画独特の繊細な線と淡い色調の画面の中に、様々な「人」や「もの」、それと「動物(らしきもの)」が登場する。それでも全体は非常にシンプルな印象で、シンプルがゆえに、その中から様々な物語やイメージが生まれ、ゆったりとした時間と空間に包まれるような世界が生まれるのかもしれない。
3年くらい前から銅版画だけでなく、油彩も始めたとのこと。彼女の新しい世界の展開を期待したい。
略歴:
1969年 長野生まれ
1993年 多摩美術大学美術学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業
1997年 第5回プリンツ21グランプリ展
ボローニャ国際絵本原画展(イタリア)
1998年 第4回さっぽろ国際現代版画ビエンナーレ スポンサー賞
第1回神戸版画ビエンナーレ 神戸新聞賞
2000年 クラコウ国際版画トリエンナーレ(ポーランド
第5回さっぽろ国際現代版画ビエンナーレ スポンサー賞
2001~2002年 Made in Japan展(イギリス)
・BURISTOL CITY MUSEUM
・BANKSIDE GALLERY
・ALFRED EAST ART GALLERY
2003年 第4回イール・ド・フランス版画ビエンナーレ(フランス)
新世代の女性版画家たち展 ギャラリータマミジアム(名古屋)
2005年 ボローニャへの絵手紙出品 板橋区立美術館(東京)
2006年 第8回日本・ハンガリー現代版画展出品(長野)
(k2o)
2011年3月12日 14:12 |
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彼女の作品では、舞台で上演される芝居を見ているような感じにとらわれる。そこで上演される芝居は、おどろおどろしい複雑な人間関係、特に男女関係、を客観的に、さめた感じで、時に自虐的な感じで観客に見せてくれる。彼女の言葉を借りれば、「一生懸命生きることで生まれる「生活の滑稽さ」」であり、日常生活に潜む「まぬけ」を作品として表現している、ということになるだろうか・・・
作品制作にあたって、特に「舞台」ということは意識していないとのことだが、舞台美術を作りたいと思ったこともあり、また、芝居を見るのが好きで、役者として芝居に出てしまったこともあるようだ。舞台で言葉が飛び交うさまが好きなのだそうだ。
彼女は作品を制作する際に、「言葉」をモチーフにして、日常生活の中で行き交う言葉を拾い集め、それらが発せられた状況とは全く別の物語を作品にしていくのだそうだ。このあたりは、前記の「舞台」ということと無意識のうちに繋がっているのかもしれない。美術の作家というよりも舞台監督や脚本家のように、舞台で芝居を作っていくような感じだ。
上演(掲載)されている作品は「どんでん返しって気持ち良くて好き」という作品で、役者さんは若いカップルとその女性の友人女性だ。若いカップルは「赤い糸で結ばれているようにあやとり」をしているが、よくみると男性の手からは一本の細い「赤い糸」が上に伸びており、その糸は女性の友人女性の手につながっているのが見え、この3人が三角関係であることが分かる。舞台の上には何やら何月と書かれたカレンダーのような札が沢山並んでいるが、これらはこのカップルと三角関係にあるもう1人の女性との間で様々な出来事があったことを示しているようだ。タイトルが「どんでん返しって気持ち良くて好き」ということは、これからまだまだ事件が起こることを暗示しているようだが、これからどのような展開があるのだろうか?このように美術作品を見て感じるというだけでなく、舞台を見たり、本を読んだりするような楽しみも感じさせてくれる作品だ。
略歴:
1984年 東京都生まれ
2003年 東京都立藝術高等学校卒業
2009年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業
現在 東京藝術大学大学院美術研究科修士課程在学中
グループ展:
2007年 「上の十の女」art space古家屋(東京)
2008年 「913」Gallery坂(東京)
「日豪交流展-Victorian college of Arts×東京藝術大学」東京藝術大学学生会館(東京)
2009年 第77回版画版画協会展 東京都美術館
「Summer Group Show Hop Step Jump」Gallery MoMo Roppongi(東京)
「EMERGING DIRECTORS’ ART FAIR ULTRA002」スパイラルガーデン(東京)
第34回全国大学版画展 町田市立国際版画美術館(東京)
個展:
2010年シロタ画廊(東京)
受賞歴:
2008年 セプティーニ・エディション賞
2009年 サロン・ド・プランタン賞/O氏記念賞/第77回版画協会展 立山賞
東京藝術大学俵賞/第34回大学版画展買上賞
(k2o)
2011年3月 5日 14:17 |
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