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【Crossroad誌:掲載記事】 『アカ』(増村真実子)(2013年1・2月合併号)
日本語と中国語のバイリンガル・マガジン『Crossroad誌』本年1・2月合併号に以下の記事が巻頭エッセーとして掲載されましたのでご紹介させていただきます。
毎月このような形で同誌の『巻頭エッセー』として、日本の若手アーティストを紹介する記事を書かせていただいております。同誌は、中国の華南地方(主として 広東省と香港)を中心に、ビジネス情報を主体としてはいますが、文化や芸術等様々な情報を発信している雑誌です。編集部は、広東省・深圳市にあります。
今回は、「増村真実子」さんの『アカ』という作品です。
作品タイトル: 『アカ』
技法:乾漆、木彫、彩漆
素材:漆、麻布、顔料、木、金
39cm × 14cm × 12cm(台座含む)
<コメント>
初めて見たときは、樹脂製の「アニメに登場するフィギュア」かと思ったが、しかし、アニメのフィギュアに感じるようなPOPな躍動感というよりも、何か懐かしい郷愁感のようなものを感じさせる作品だ。それもそのはずで、樹脂製ではなく、「漆」と「乾漆法」という伝統的な素材と技法を用いたものだそうだ。
乾漆法というのは、元々は中国で編み出されたものだが、日本でも古くから用いられているもので、まず、木製の芯木で像の骨組みを作り、その上に粘土を盛り上げて像の概形を作り、その上に麻布を麦漆で貼り重ねて像の形を作るものだそうだ。日本では、7世紀から8世紀にかけて、仏像を作るのに用いられ、その代表的な作品に、「東大寺三月堂の不空羂索観音菩薩像」がある。
東大寺は、もちろん、大仏堂が一番有名ですが、それ以外に2つの堂が作られました。それらは二月堂と三月堂(法華堂)です。カエサル以前のローマでは、2月が1年の最後で、3月が始まりで、この東大寺の2つの堂の命名もそれに関係している。二月堂では、春の儀式として「お水取り(火の浄化)」が行われる。これはキリスト教の「サクラメント」の考えを継ぐものと言われ、浄めの儀式です。そして、清めの儀式のあとに行われるのが、宇宙の根源と一体化することです。三月堂はそれを行うための場所で、宇宙から神聖な光を吸収し、また、それを地上のすべての人々あるいは動植物に届けることでした。
そのために不空羂索観音菩薩像が置かれています。この菩薩は、地上世界の邪悪なるものを見つけると、それらを光を出すことで消し去ってしまいます。それに使われるのが、名前にも入っている「羂索」で、いわば捕縛するための縄のようなものです。宇宙からの響きを受け止めて、それを光として発するためには、宇宙と周波数を合わせる必要があり、そのために縄文からのイノチの響きを伝えるニヒスイの勾玉が使われました。それゆえに不空羂索観音菩薩像の宝冠には無数のヒスイの勾玉が付けられているのです。
この作品にも、縄文から使われていた「漆」が使われており、この像が、大人でもなく子供でもない少女で、また、少女といってもどこか中性的な感じがするところは、仏像本来の姿に近いような印象を持ちます。また、見る角度によって、表情が変わり、どこか懐かしいような印象を持つのは、見る人とこの作品の魂が、お互いが縄文から現代まで引き継いているそれぞれのDNAに響き、共振しているのかもしれません。
<略歴>
1986年 漆芸家 増村紀一郎(重要無形文化財保持者 - 人間国宝)の次女として
東京に生まれる
2009年 東京藝術大学美術学部工芸家 漆芸 卒業
2011年 東京藝術大学大学院美術研究科工芸専攻 漆芸 修了
展覧会歴:
2012年 個展『カサブタ』( waitingroom、東京)
グループ展『Gallerist Meeting×SOMEWHERE 非日常のライフスタイル』( 渋谷ヒカリエ 8/ CUBE 1, 2, 3、東京)
アートフェア『New City Art Fair』( hpgrp GALLERY NEW YORK, New York)
2011年 グループ展『シブヤスタイルvol.5』( 西武デパート渋谷店8階オルタナティブスペース、東京)
アートフェア『ULTRA004』(SPIRAL、東京)
グループ展『漆芸の未来を拓く - 生新の時2011 -』(石川県輪島漆芸美術館、石川)
グループ展『Blijven』( G671gallery、東京)
2010年 グループ展『第三回国際現代漆芸展』( 福建省美術館、中国)
グループ展『うるしのかたち展』(藝大アートプラザ、東京)
グループ展『第5回藝大アートプラザ大賞展』(藝大アートプラザ、東京)
2009年 グループ展『漆芸の未来を拓く - 生新の時2009 -』(石川県輪島漆芸美術館、石川)
受賞歴:
2011年 東京藝術大学卒業・修了作品展 修了作品 日本ペイントデザインセンターアワード受賞
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