【Crossroad誌:掲載記事】 『箱庭』(冨樫早智)(2013年4月号)
【Crossroad誌:掲載記事】 『箱庭』(冨樫早智)(2013年4月号)
日本語と中国語のバイリンガル・マガジン『Crossroad誌』本年4月号に以下の記事が巻頭エッセーとして掲載されましたのでご紹介させていただきます。
毎月このような形で同誌の『巻頭エッセー』として、日本の若手アーティストを紹介する記事を書かせていただいております。同誌は、中国の華南地方(主として 広東省と香港)を中心に、ビジネス情報を主体としてはいますが、文化や芸術等様々な情報を発信している雑誌です。編集部は、広東省・深圳市にあります。
今回は、「冨樫早智」さんの『箱庭』という作品です。
作品タイトル: 『箱庭』
コメント:
冨樫の作品には、それぞれストーリーがあるそうだ。「電脳世界」に興味があるそうで、個々の作品のストーリーはその電脳世界でそれぞれ展開されるものだ。「電脳世界」では、「攻殻機動隊」というアニメが有名だが(作家がその影響を受けたかどうかはわからないが)、筆者は最近ほとんどアニメを見ないので、残念ながらそのアニメは名前だけで内容をほとんど知らなかった。「攻殻機動隊」は映画「マトリックス」にもかなりの影響を与えたようで、仮想空間であるマトリックス(「電脳世界」)に入る際に後頭部にプラグを挿し込んだり、人間が培養槽のようなカプセルに入れられたり、というような基礎的な設定でかなりの共通項が見られるようだ。
「マトリックス」では、主人公のトーマスが、起きているのに夢を見ているような感覚に悩まされ「今生きているこの世界は、もしかしたら夢なのではないか」という、漠然とした違和感を抱くことから物語は始まり、「起きろ、ネオ」「マトリックスが見ている」「白ウサギについて行け」という謎のメールを受け取ったことをきっかけに、自身が生きていると思っていた世界こそが、コンピュータによって作られた仮想現実だったと気付くことになる。
この『箱庭』という作品では、「電車」「襖」「トンボの眼」などで囲まれた不思議な空間に入り込んだ少女と少年が描かれている。身近なところで不思議なことが起こる少女が気になって近づいていくうちに、少年もこの不思議な空間に入り込んでしまったようだ。2人には両側から、トンボの頭が迫ってきている。トンボの眼は大きく、複眼で、270°も視野があることから、物事を監視しようという場合のシンボルなどに使われるが、ここでもまさに、2人が監視されていることを表しているようだ。2人の足元は、パックリと黒い未知の空間が口を開けているが、その先はどこにつながっているのだろうか?
「攻殻機動隊」や「マトリックス」などでは、「電脳世界」(仮想世界)を作り出した主体こそ異なるが、そこに登場するモノは、「電脳世界」が認識・拡大するようになると、それぞれがその存在を主張し活動するようになる。アノマリーも発生する。また、電脳世界そのものを理解するアノマリーも発生し、自己増殖していく。登場するモノは、自身の意思で動いているのか、はたまたそれらの行動自体がプログラムされていることなのかわからなくなり、アイデンティティ・クライシスに陥る。
作家は、電脳空間に様々な物語(プログラム)を作っているが、それはこれからもどんどん増えていくだろう。ひょっとすると作家自身がコントロールできないようなアノマリーが発生するかもしれない。また、そのアノマリーが、作家の作り出す電脳世界・マトリックス(仮想世界)を破壊してしまうようになるかもしれない。その先にはどのような世界が広がっているのだろうか?「リロード」か?…作家、電脳世界そしてプログラムやアノマリーなどが共存していくことはできるのだろうか?レボリューション」か?
略歴:
2010年 女子美術大学版画専攻 卒業
2012年 女子美術大学大学院美術研究科版画領域 卒業
個展
2011年 「冨樫早智展」Gallery 銀座フォレスト(東京・銀座)/(’12年)
グループ展
2009年 「日本版画協会展第77回版画展」東京都美術館(東京)/(’10、’11、’12年)
2012年 「女子美術大学大学院版画終了制作展」シロタ画廊(東京)
「GEISAI♯16」東京流通センター第二展示場(東京)
「正方形展」ギャラリーりんごや(東京)
2013年 「新春展」シロタ画廊(東京・銀座)