【Crossroad誌:掲載記事】 『変身他自図』(大塚怜美)(2013年12月号)
【Crossroad誌:掲載記事】 『変身他自図』(大塚怜美)(2013年12月号)
日本語と中国語のバイリンガル・マガジン『Crossroad誌』本年12月号に以下の記事が巻頭エッセーとして掲載されましたのでご紹介させていただきます。
毎月このような形で同誌の『巻頭エッセー』として、日本の若手アーティストを紹介する記事を書かせていただいております。同誌は、中国の華南地方(主として 広東省と香港)を中心に、ビジネス情報を主体としてはいますが、文化や芸術等様々な情報を発信している雑誌です。編集部は、広東省・深圳市にあります。
今回は、「大塚怜美」さんの『変身他自図』という作品です。
作品タイトル: 『変身他自図』
コメント:
現代社会が持っている病理的な側面が悲劇的な事象となって現れることが多くなっていますが、そのような時に、それらの原因を説明する際に、「自己家畜化」という言葉が注目されます。「家畜」というのは、生物学的には、「生殖」が人の管理下にあり、野生種からは遺伝的に隔離された動物とされます。つまり、生命と種が、人為的にあるいは人為的な環境の中で管理されている動物ということになります。その「家畜」という言葉の前に「自己」という言葉が置かれたのは、ヒトが、自ら自然環境から切り離す形で人為的な環境(システム)を構築して、その中で自らの生命と種の管理を行ってきたことに由来するものです。
ヒトは原始には、他の動物たちと同様に、自然環境と一体となって生活していたはずです。しかし、一旦、人為的な環境を作り出すと、それをどんどん拡大し、自然環境の影響を少なくする方向へ向かってきました。その過程で様々な社会的システムを構築し、現在では、自らが作った社会システムの中に身を置かないと、もはや生存できないといいう状況となっています。
ヒトは、当初、「自らが自分を飼っている」ということであったはずですが、それが忘れられて、「飼われている」という動物の家畜と同じになってしまっているかもしれません。
ヒトが構築した社会システムはかなり出来上がってきており、それを維持するために必死になってヒトが何かをしなければならないということはもはやありません。むしろ、システムにただ従っていけば良く、その方が楽という状況にもなっています。
地球上におけるヒトの数は70億人にものぼります。種を拡大するということでは、その目的は達成されたと言えるでしょう。しかし、それによって本来は主となるはずの「自己」というものがどこかへ失われていないでしょうか?その社会システムの拡大によって、本来ヒトが持っている自己の本能的な衝動との間に矛盾が出てきていないでしょうか?
「喜び」といった時にも、何が「喜び」なのかも変わっていないでしょうか?自然環境の中に置かれていた時には、自然そしてそこに存在する多くのイノチとの響き合いそのものが喜びであったはずですが、今は何が喜びなのでしょうか?
今回の作品は、「変身他自図」という作品です。「ギャル」が流行っているというファッションにならって、同じように付けまつ毛などの厚化粧をし、同じような髪型にしようとしている姿を描いたものです。そこにあるのは、「他自」とあるように自らの「絶対的な喜び」を目指すものではなく、同じ世代の「他」の子達がしている「流行っている」といわれる格好に似せるというもので、それはあくまでもある特定の集団に帰属して、その中での「相対化」された喜びを目指すものです。あるいは家畜化された羊は群から離れては生きて行けませんので、群れの中に身を潜めるというものでしょう。
作家は、そのようなギャルが理解できずに、ギャルの格好をしたこともあるそうですが、それは、家畜化されたヒトが忘れてしまった「自らが自分を飼っている」という意識が作家の潜在意識の中に存在して、人工的ではない自然環境の中で、相対化されたものではなく、絶対的なものを求めるように働きかけているからではないでしょうか・・・
略歴:
1986年 群馬県出身
2010年 東北芸術工科大学芸術学部美術科日本画コース 卒業
2012年 東北芸術工科大学芸術工学研究科修了課程 芸術文化専攻日本画領域 修了
個展・グループ展:
2010年 東北芸術工科大学卒業・修了制作展
東北芸術工科大学卒業・修了制作展[東京選抜展](東京・東京都美術館)
「トーキョーワンダーウォール」【入選】(東京・東京都現代美術館)
「Ten・テン・てん」(千葉・スペースガレリア)
HIJIORI Light Project 「ひじおりの灯2010」(山形・肘折温泉街)
「月・Moon」(千葉・スペースガレリア)
2011年 個展「大塚怜美展-水を得ぬ魚たち-」(東京・ギャラリーf分の1)
「ギャラリーへいこう2011」【入選】(東京、滋賀・数寄和)
「SHINSEIDO SPROUTS vol.1-山のカタチ-」(東京・新生堂)
2012年 東北芸術工科大学卒業・修了制作展【優秀賞】
「SHINSEIDO SELECTION vol.2」(東京・新生堂)
「 第31回損保ジャパン美術財団選抜奨励展」【オーディエンス賞】
(東京・損保ジャパン東郷青児美術館)
東北芸術工科大学卒業・修了制作展[東京選抜展](東京・外苑キャンパス)
個展「現代風俗女性像」(東京・ポスターハリスギャラリー)
「水墨最前線2012‐朝倉隆文 及川聡子 大塚怜美‐」
(東京・日本橋髙島屋美術画廊X)
2013年 「や・よ・い なる旬な画家たち展」(宮城・藤崎)
個展「タマサカル」(東京・ポスターハリスギャラリー)
「~24名の作家による~今日の墨表現展」(東京・佐藤美術館)
個展「大塚怜美展」(東京・新生堂)