【Crossroad誌:掲載記事】 『stare』(飯沼由貴)(2014年1月号)
【Crossroad誌:掲載記事】 『stare』(飯沼由貴)(2014年1月号)
日本語と中国語のバイリンガル・マガジン『Crossroad誌』本年1月号に以下の記事が巻頭エッセーとして掲載されましたのでご紹介させていただきます。
毎月このような形で同誌の『巻頭エッセー』として、日本の若手アーティストを紹介する記事を書かせていただいております。同誌は、中国の華南地方(主として 広東省と香港)を中心に、ビジネス情報を主体としてはいますが、文化や芸術等様々な情報を発信している雑誌です。編集部は、広東省・深圳市にあります。
今回は、「飯沼由貴」さんの『stare』という作品です。
作品タイトル: 『stare』
コメント:
最近、「社会脳」という研究分野があることを知りました。人の社会的行動に関わる脳構造とその研究を指すそうです。わかったようでわからないのですが、もっと大きく括ってしまうと「人を理解」するということだそうです。
脳という器官には、銀河系の星の数に匹敵するような膨大な数のニューロンが存在し、そこでは様々な意識や感覚を生み出しています。デカルトは、方法序説において「我思う、ゆえに我あり」として、自己の存在を定式化しました。しかし、人の人たる所以は、自己のみでなく他者と関わることで規定されるとも言われます。社会脳の研究では、自己と他者との関わりにおける脳内表現が探求されます。
「人の人たる所以」といいましたが、どうも他の動物と人とを分けるものは、数多くの他者と様々な関係を作ることが出来ることにあるそうです。ダンバー氏(Robin Dunber)は、全脳に対する大脳新皮質の割合を比較することで、その比率が、それぞれの種の社会グループの大きさと相関関係にあることを発見しました。そこでわかったことは、決して強いとは言えない人が成功したのは、大きく複雑な社会的ネットワークを構築する能力を身につけたためで、脳(特に大脳新皮質)を発達させてきたからということだそうです。
以前は、社会脳の研究を行う際には、仮想的な状況で脳の情報を計測してきたのですが、最近は、実際の社会的状況で個体の情報の計測を行うことが試みられています。例えば、最近、「拡張する脳」という書籍を上梓した藤井直敬氏は、「代替的現実」(Substitutional Reality:SR)を造り出して、それを現実と入れ替えてしまうという「SRシステム」を開発して、被験者に様々な体験をさせることで研究を行っています。藤井氏によれば、他者との関係性や状況で、脳は認識を次々と拡張しているそうです。
今回の作品は「stare」という作品で、作家が、「動物の姿を借りて現実や感覚の世界を表現」しているそうです。それはまさに他者がいることで、自分の意識や行動・表現が変わってしまうという「社会性」、あるいは突き詰めると先のように「人」を理解しようという試みかもしれません。
作家の行為は、動物を「あつめる」(グループ化)することで、仮想的な状況を造り出して実験をするかのようです。この作品は「stare」ですが、「まかれる」「かきわけて」「それぞれの」「まもる」というように様々な仮想的な状況を作品化して実験を試みています。人は他者と関わり、そしてその数を増やし、グループ化し、それを大きくしていくうちに、社会脳を発達させる必要性が出てきたというのですが、作品に現れる動物たちも、様々な仮想的な実験を繰り返すうちに、社会脳を発達させて、その行動・表現はどんどん変わったものになってくるのかもしれません。そして、「現実」と作品の「仮想」との区別がつかなくなり、「自己」と「他者」の区別もつかないような時が訪れるかもしれません。その時に「stare」しているのは誰なのでしょうか・・・?
略歴:
1991年: 岐阜県生まれ
2013年: 愛知県立芸術大学 油画専攻卒業
グループ展:
2013年 愛知県立芸術大学 卒業・修了作品展(愛知)
湯谷見遊山 (愛知)
見参 -KENZAN 2013(東京)
個展:
2012年 as usual (愛知県)
2013年 あつまるxあにまる (伊勢丹新宿店)
展示予定:
2014年3月 アートフェア東京2014(画廊くにまつブース)
2014年5月 飯沼由貴 / 村上仁美 2人展
取り扱い画廊:
画廊くにまつ 青山 www.g-kunimatsu.com/