浪江町での山火事のニュースを見て、これまでの学びを整理します。
1.
東京大学の調査報告書「福島第一原子力発電所事故から5年を経過して農業面で何が分かってきたのか」(BUNSEKI KAGAKU, Vol.66, No. 4, pp. 217-222, 2017年 http://xfs.jp/VUIe9 )によると、福島第一原発周辺の野生化したヤギと豚(あるいはイノブタ)を比較した場合、「実際に調べたところ、ヤギとは異なり体内の放射性セシウム濃度が高いことがわかった」という。野生化したヤギは「放射線量が高いところで活動していたにもかかわらず、体内の放射性物質の濃度は非常に低かった」のに。
2.
これは結局、土壌汚染が生物の内部被曝に直結していることを示している。つまり、植物などを介して「間接的に」土壌汚染が生物の内部被曝に至る、ということではなく(あまりなく) 、直接、汚染土壌を摂取(あるいは吸引)することで、生物は内部被曝する、ということを示している。
3.
報告書「放射性微粒子の謎に迫る」(『ぶんせき』2016年12月、529-530ページ、日本分析化学会発行 http://xfs.jp/TK1US )は、これまでの研究を整理していて便利である。それによると、福島第一原子力発電所事故の結果、ウラン(何度もα線・β線を放射する=ごく近傍の細胞はがん化するまでもなく細胞死に至る)を含むガラス化した(水にはほぼ解けない)放射性微粒子が飛散していることが、すでにわかっている。そのガラス状物質は、原子炉内で生成された可能性が高く、その大きさは最大でも6.4マイクロメートルであった。つまり、PM 2.5と呼ばれる微粒子対策を、ここで考えなければならなくなる(通常のいわゆる「マスク」では、吸入を完全に防ぐことができない)。
4.
上記「放射性微粒子の謎に迫る」は、さらに、上記放射性微粒子と、チェルノブイリ事故の際の「ホットパーティクル」との比較結果も整理している。それによると、「福島原発事故由来の放射性微粒子のほうが、より多くのCsを凝縮した粒子である」という。福島事故は、チェルノブイリ事故とは違う、と巷間語られる。そのとおり。もっと深刻かもしれない。
5.
上記「放射性微粒子の謎に迫る」はまた、汚染土壌の研究結果もまとめている。それによると、上記微粒子の他に、さらに「可溶性」「水溶性」の放射性物質も飛散したことがわかっているという。そういえば、最初に紹介した東京大学の調査においても、樹木の表面に付着したはずの放射性物質が、幹内部への水の動きに乗って、幹内部への移動した可能性が高い、と指摘していた。
6.
ただし、上記東京大学の調査によると、土壌に吸着したセシウムは、「最初の3か月で土壌中の深度別放射性セシウムプロファイルは2cm下がったものの、次の3か月ではその間に雨量が3倍に増加したにもかかわらず、5.6mmとなり、次第に動かなくなった」という。そして「現在では年間1-2mmほど」しか、地下へ浸出(移動)しないこともわかっている。
7.
これだけのことがわかっている2017年4月末に、強制避難区域であった山林(原発事故現場から20キロ内陸の十万山)で、大規模な山火事が起こってしまった。火はまだ、消し止められずにいる、らしい。山林の樹皮には、今なお大量に、福島事故由来の放射性物質が付着していたであろうに。それは灰となり、上昇気流に乗って舞い上がっている、かもしれない。そして、地表3cm程度のところにまだ堆積している放射性物質は、焼け野原となったあとに吹きすさぶ風に乗って、樹木から灰になって降下した放射性物質もろともに、容易に舞い上がり飛散することだろう。
整理は、以上です。
土壌汚染をひたすら無視してきた世間は、「見たくないもの」を今見なければならなくなっている。
怒るな。諦めるな。怯えるな。阿るな。…… そう自分に言い聞かせている朝です。